帰属不明の年金記録が5千万件と聞いて,ちょうど一昔前のことを思い出しました.1997年(平成9年)に「基礎年金番号通知書」が送られてきたとき同封されていたチラシに「今までに複数の年金制度に加入していた人は,加入記録がばらばらになっている場合がありますので統合の手続をしてください.」というようなことが書いてあったような気がします.私の場合,1997年は加入からそれほど経っていませんでしたので大変単純でしたが,その当時既にいくつかの会社に勤めていた人などは,記録未統合という人も多いのではないでしょうか.
国民年金は区役所で,厚生年金は会社経由社会保険事務所で手続が行われ,それぞれの記録は別の番号で管理されていたと思いますので,国民年金と厚生年金を行ったり来たりすると,未統合は簡単に出てしまいます.
実務的にも,厚生年金は会社経由の手続で,住民票とも関係がありませんので,厚生年金加入中に転居していてその手続が済んでいなかったりすると,いつのまにか「誰のものかよくわからない」年金記録が出来上がってしまいます.
さらに,本来フリガナを書いて出すべき書類にフリガナを入れなかったり,旧姓がある人がそれを申告しなかったり,名前の「沢」と「澤」が揃っていなかったり,転職の時に年金手帳が見つからなかったり...と,未統合が生じて当然のような書類を出す人もたくさんいると思います.中には,就職するとき年齢制限をごまかして入社したため,生年月日が違う年金記録ができてしまった,というような事例もあるとのこと.そんなの役所が一々面倒を見きれないよ,というのが,社会保険事務所の職員たちの本音ではないでしょうか.
そして,わが国には,国民の情報を国が統一して管理できるような仕組みがありません.韓国のように統一した国民番号もありませんし,各種の記録はそれぞれの役所が個別に管理し,相互に参照することは通常ありません.住基ネットというものも作られましたが,あくまでも自治体の事務であって,国が住基ネットのデータを網羅的に吸い上げて独自のDBを作るようなことも想定されていませんし,何しろ自治体の判断で接続を選択制にしたり拒否できてしまう程度のものです.
国民の情報を一元管理できるような国であれば,年金の加入・異動なども,おそらく「いつもの番号」を書くだけで,たとえ住所や名前が変わっていようと,番号で正確に紐付けされていたことでしょう.しかし私たちはそのような社会を選んできませんでした.(もっとも,年金という1つの枠組みがいろいろな制度でバラバラになり,統合管理されていなかったことは問題といえますが.)
ある意味「自由な社会の代償」として,引越しをすればいくつもの役所に届出を行い,年金の手続も2つの役所で行うという面倒さが生じてしまうのは,やむを得ないことなのでしょうか.(区役所には届けを出すが,あえて○○省には届けないでおこう,というような人もいるかもしれません...)
最初に国民年金に(自動的に)加入したとき,年金手帳に同封のチラシには「年金権はあなた自身で守るものです.機会機会の手続を忘れずに...」というようなことが書いてあったように思います.当時としては驚いたものですが,おそらく,役所はこのような情報管理の限界(不完全さ)を認識していて,国民がきちんと手続をするよう啓発していたということなのでしょう.
根本的には,役所は裁定請求(年金を受け取る請求)の時に職歴などを確認してきちんと名寄せすると思っていて,国民は何もしなくても役所が面倒を見てくれると思っているという,深い深い認識のずれがあります.国民総背番号を選ばなかった国の国民は,もう少し制度の内容を理解し,必要な手続を自分できちんと行うという意識が必要なのではないかと思います.変に面倒見のいい役所というものは,ある意味怖い役所であるということをお忘れなく...
いずれにせよ,「5000万件」の記録は,あくまでも「帰属不明の記録」というだけですから,経歴や職歴さえきちんと思い出せれば,おそらく本来の年金を受給できることが多いのではないかと思います.特に,厚生年金の場合は,会社の名前から絞り込むことが可能と思います.これについては,「ねんきん定期便」などで内容を確認してもらい,嫌疑がある人は役所で手続を,という形でも(本人がきちんと手続をしている限り)大きな問題にならないかもしれません.
むしろ大問題なのは,納めたのに納めたことになっていない国民年金の加入記録など,「5000万件」の枠外で「本当に消えてしまった記録」ではないでしょうか.大幅減額というのも困りますが,記録の消失が原因で25年を満たせず無年金という事例が生じたら,それこそ目も当てられません.
こちらの問題は,既に報道などで「いくら探しても記録が出てこない」という人が多数登場しています.手作業で納付を管理していた時代の分などは,本当に消えてしまったのではないかと不安になります.これを国民が領収書などで証明せよといわれても無理な話で,真剣に救済策を考える必要があります.マスコミや野党も,物事の本質をあぶり出した上,役所の限られた人員で優先順位を設けて行っていくべきです.
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