熊本市の病院が設置した,報道等でいうところの「赤ちゃんポスト」(赤ちゃんは物ではないので,さすがに「ポスト」には違和感を感じ,仮に「新生児無人保護窓口」といっておくことにします)に初めて託されたのは,3歳の男児でした.
男児は自分の名前を名乗り,「新幹線で連れられてきた」と答えたそうです.熊本には新幹線が延びていないため,九州新幹線で鹿児島方向から来たか,山陽新幹線で広島方向から来たかはわかりませんが,いずれにせよそれなりの距離からわざわざ連れて来られたわけで,まさか本当のことを言って連れて行くはずもありませんから,「新幹線に乗せてあげるよ」といわれて(多分)喜び勇んで連れられてきた先が件の無人保護窓口であったというのは,やはり残酷といえば残酷なことです.
男児の家庭環境などがどのようなものであったかわかりませんが,おそらく,何らかの事情で思いつめた父親がやむにやまれず無人保護窓口に男児を託したというところではないでしょうか.児童虐待がこれだけ深刻な問題になっている中,虐待という方向に向かっていなかったことは,「養育放棄とはいえ,助けられる形で行われた」と見ることもできます.
成人までの間,休むことなく子育てをしていくことは,おそらく相当な困難を伴うものだと思います.さらにいえば,片親の家庭,父母が若年である,障害児である場合など,困難が生じやすい家庭も多数あります.一時的に思いつめるようなことがあったとしても,何ら不思議ではありません.確かに何があっても虐待やネグレクトが許されるものではありませんが,だからといってそれをしてしまった人を非難していても,おそらく問題の解決にはつながりません.社会における受け皿の不十分さを解消しなければ,結果として虐待等に至ってしまう事例はなくならないでしょう.
養育にかかわる不安や困難に対応するためには,すでに児童相談所という役所があり,今回の父親も本来は児相に相談しておけばよかったのかもしれません.本当に父親が養育を続けることが難しい場合,養育家庭に一時預かってもらうような解決策がとられる可能性もあります.ただ,今本当に思いつめている父親が児相に何かを期待できただろうかというと,そうではない可能性も多分にありますし,先が見えない不安の中で役所に相談するという答えが出なかった(もしくは,相談したが父親が納得できる解決ができなかった)という見方もできます.いずれにせよ,最近は虐待対策で注目されている役所ですが,相談機能についても周知が図られることが必要と感じます.
無人保護窓口の存在が,安易な養育放棄を招くのではないかという懸念はもっともであり,そうなってしまうとすれば大きな問題ではありますが,虐待や放置により深刻な結果となるかもしれない子どもを助けることを考えると,現時点で受け皿が不十分な状況下では,やむを得ないところではないでしょうか.
しかし,本来は匿名で児童を託すよりも,ひとまず匿名で相談でき,その上で一時保護や里親制度等の活用の検討を行うという,児相を中心とした本来の制度が十分に機能することが望ましいことはいうまでもありません.子どもにとって一番望ましいのは実親に育てられることでしょうが,里親に育てられるほうがよい状況も残念ながら存在しますし,今後のため一時的に保護者を子育ての負担から解放することが現実的な場合もあります.(そして,そのような形の家庭を社会が違和感なく受け入れる素地も必要になってきます.)
既に各地の児相では相談窓口を多数設け,一部の窓口では匿名で相談できることを含め利用を呼びかけていますが,今後はより既存の制度の周知に努め,無人保護窓口が不要といえるような状況をつくることが必要でしょう.喜怒哀楽様々をとりまぜた警察の胡散臭い広報番組「警察24時」のような番組でも,一般人に児相の機能を知らしめる意図であれば,ぜひ流してもらいたいものです.
ところで,今回保護された男児は3歳でした.名前を言えることから,あの「住基ネット」で検索一発な気がしますが,そうでなくても父親が誰かは既に判明しているのではないかと思われます(所在がわかるかは別問題ですが).おそらく今後児相などで父親と面談のうえ,保護を継続するか家庭に帰すかなどが協議されていくのだと思います.また,仮に名前が言えなかったとしても,出生届が出されていれば学齢に達する前後で就学前検診などの機会があり,本当に生後間もない新生児以外を匿名で預けておくことには限界があるといえます.その意味でも無人保護窓口でなければならない理由は乏しいわけで,「児相に相談する」ということのハードルが高く感じられたのか,または児相が相談を受けるも父親の状況の深刻さを読みきれなかったのか,気にならなくはありません.
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