足立区が未就籍児の住民登録を先行---少なくとも23区では例がないとのことです.住民登録は自治事務であり,各自治体の判断で(法律を守りながら)行ってよいからできたのでしょうが,役所としてもこれが先例になってしまう覚悟で行ったのであり,子どもの権利保護のための1つの英断といってよいと思います.
本来戸籍と住民票は別のもので,独立して存在するものです.そのため,住民票はあるが戸籍はないという人も法律上はありえるもので,住基法7条1項5号を見ると,一応は住基法もそれを想定されているように見えます.(逆は多数存在します.在外の日本国民など.)
しかし,無戸籍者を住民登録してはならぬという通達があり,各自治体はそれをもとに未就籍児を住民登録できないでいるようです.(この辺,ご存じの方がいらっしゃればご指摘いただけると幸いです.)
現実問題として,戸籍や住民票はすべての行政サービスの基礎となっており,出生後の医療サービスに支障が生じているという1点をもってしても,出生した子どもが速やかに登録される必要があることは,いうまでもありません.(この点につき,児童の権利に関する条約7条を参照.)
ここで,戸籍と住民票の違いが問題になってきます.戸籍は主に国籍および親族関係を記録・公証するもので,住民票は居住関係を記録・公証するものです.
最近問題になっている「300日条項による未就籍児」については,母子の関係および居住関係に争いはないが,父子の関係に争いがある事例ということができます.また,国籍法では父母のいずれかが日本国民であれば子も日本国籍を取得するので,母親に戸籍がある(=日本国民である)限り国籍にも争いがありません.
婚姻の事実をもって父性を推定する300日条項の存在自体は,子どもの権利保護の観点から妥当なものだと思います.300日という具体的日数が妥当かは不明ですが,前夫との離婚が遅くなった場合は日数を短縮したところで今問題になっていることの解決にはなりませんし,子どもの権利の観点からはひとまず書面だけで父親として推定される人が決まることも重要なことでしょう.
しかし,確かに,一度たりとも事実と異なる戸籍の記載を受けたくないという心情はもっともですし,今から推定を覆そうとしているのに,わざわざ前夫を父として(しかもその戸籍に)登録したくないのは誰でもそうでしょう.
このようなことを考えると,このような事例では一定の期間内に裁判所の判断を求めることを前提に,住民登録を先行させることも必要といえます.子の姓を母の現在の姓とすることには(母だけの主張を聞いて行うことに)問題がないとはいえませんが,いずれにせよ嫡出推定を覆すには裁判所の判断によるほかはなく,その判断により戸籍を作るということになるのだと思います.
戸籍がない状態が続くことも望ましくありません.現在の規則では旅券の取得に戸籍証明書が必要であり,未就籍の高校生が海外に修学旅行に行けないという問題が指摘されています.旅券の発行に戸籍が本当に必要かといえば,他の方法で日本国籍が証明できる限り不要ではないかと考えますが,現行の取扱いでは必要とされていることは確かです.いずれにせよ未就籍のままでは母子の関係を証明することもできず,また,今後結婚する際など(さらには,未就籍のため婚姻届を出せない状態で妊娠・出産が先行した場合など)に新たな問題が生じるわけであり,やはり戸籍も早急に作られる必要があります.必ずしも妥当かどうかはわかりませんが,とりあえず「親子関係が現在争われている」旨を示した仮の戸籍(筆頭者は子ども本人で,母に関する事項のみを記載したもの)を作り,裁判が確定したときに本来の戸籍に入籍させることも考えられてよいのではないでしょうか.
この点についてはやはり裁判所の関与をなくすわけにもいかないと思いますが,その手続が当事者にとって必要最低限の手続であるのか,改善できる点はないのかを検討する必要があると思います.
婚姻関係が事実上破たんしている状態で他の人と交際・同居することについての考え方は人それぞれですが,現実には戸籍の記載と実態が異なる事例は普通に存在しますし,子どもも生まれてきます.戸籍というものは,そのような事実をありのままに記載して公証するべきもので,それ以上のものでも以下のものでもありません.まして記載の通り行動せよという力は戸籍にはありません.
300日条項に限らず,女性の待婚期間や非嫡出子の相続差別条項などは,法制定当時の一般的な状況や価値観に基づいて制定されたものでした.そして,その条項が一定の価値観を規範のようにしてしまっていました.本来事実関係を記載・公証する制度であるはずの戸籍が,人の行動をある程度抑制していたのです.「戸籍が汚れるじゃないの」というような抵抗感はその典型ですが,少なくとも大人に関する限り,昔に比べてこのような力は弱くなってきたといえます.
しかし子どもへの差別や不利益は依然存在しており,一種の「人質」に取られている状況は否定できません.これは家族法や戸籍制度の本来の役割を逸脱するもので,大きな問題であり,改められなければなりません.
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