科学技術を飯の種にして生きている人間の端くれ(現代社会では全員がそうなのかもしれませんが)としては,また残念な事故が起こってしまったものだと思います.
都市ガスにはCOを含む石炭系のガスと,含まない天然ガスがあり,昔から天然ガスへの切り換えが推進されてきました.天然ガスのほうが体積あたりの熱量が大きいため,この切り換えを「熱量変更」と呼んでいます.私の記憶では,東京では20年~25年ほど前に行われたでしょうか.
北見市では,熱量変更が行われていませんでした.長いことL3という種類のガス(報道では4Bといわれていますが,省令上は4Bを含むいくつかの種類をあわせてL3と呼ばれるそうです)が供給されており,2年後を目処に天然ガスに変更される予定でした.
今回の事故で,北ガス(北海道ガス)の対応について,批判が集中しています.確かに批判されるべき点はあるでしょうが,実は北見市では06年4月まで,市営ガス(市営バスではありませんのでお間違いなく)がガスを供給していました.現場の鋳鉄管も市が敷設したものです.市営ガスの赤字体質に加え,熱量変更という一大事業の負担が重くのしかかり,市は事業譲渡により北ガスに移管したのでした.(なお,地方では公営ガス事業は珍しいものではありません.最近は民営化でだいぶ減ってきましたが.)
移管からわずか1年にも満たない事故,引継ぎは十分だったのか,現場の人たちがどのように考えて行動したのかなどをきちんと考えなければ,再発防止にはつながりません.
このような産業事故ともいえる事故では,正直なところ,犯人探しをしている場合ではない,ということがいえます.警察は刑事責任を追及するのが仕事ですので,犯罪の立件ということがどうしても目標になってしまいます.しかし,産業事故では責任の所在が非常に希薄かつ広範囲になってしまうため,刑事責任の追及と(工学的見地での)原因の解明が相容れない部分が大きく生じます.大事故のたびによく言われることではありますが,日本でも「刑事免責」が必要ではないか?と思います.
もちろん,明確に誰かの過失により事故が生じた場合は,その人が業務上過失致死傷罪の責めを負うことは当然です.しかし,単純な自動車事故のようなものと異なり,産業事故には「誰が悪かった(誰の不注意だった)」といえるような事故は少なく,組織の体制の不備であるとか,誰かの刑事責任を問うことが難しい(誰も自分に不利なことを供述しないし,その義務もないので,かえって真相解明を妨げる)ことが多いのではないでしょうか.
刑事免責をどのような形で導入すべきかは難しいですが,「組織の過失」に基づくと思われる事故について,刑事責任を追及しない代わりに,関与した人に事実を証言する義務を課す,といった方法になるのでしょうか.
対被害者では,会社が民事的に十分な賠償を行うことしかないのかもしれませんが,対国民では,行政上の処分として一定の行政罰(課徴金,業務改善命令など)を課すほか,報告徴求,監督強化により,「再発をさせないことも国の責任」というくらいの意気込みで当たることで,同じ事故を繰り返さないことに全力をあげることが必要です.
ところで,COを含む都市ガスの問題については,やはり危険なガスを使っている以上,事故のリスクは常に伴うというほかありません.破断の可能性がある鋳鉄管をPE管に交換する作業は各地で行われていますが,これ自体比較的最近始まったものであり,交換をするにしても道路掘削が必要なだけに,そう簡単に進むものではありません.やはり予定通り粛々と熱量変更を終わらせてしまうほうが重要です.
ここにきて,経済産業大臣は「熱量変更の前倒し」をするようなことを言っていましたが,もともと,全国での作業の完了が2010年の計画になっています.私は東京の熱量変更を覚えていませんが,事前に(ずいぶん前)に,各家庭を戸別訪問し,どのような器具があるかをすべてリストアップ,交換部品を順次調達し,熱量変更の日は一斉に各戸のガス器具のノズルなどを交換するという気が遠くなるような作業を,まさにローラー作戦で繰り返していきます.供給側設備においても,1日で作業できる戸数ごとに新旧の導管を切り替えられるようにしておくなど,その1日のために緻密かつ膨大な準備が必要です.大臣は「切り換えの作業員を全国で融通するなどして作業を早める」と,すばらしいアイデアを披露しました.これができれば,工期も費用も大きく節約できます.しかし,大臣が考えつく程度のことはお金にシビアな民間がとっくに思いついているもので,「熱量変更共同化事業」という事業が各地ですでに行われています.
おそらくガス事業者は色々な制約に鑑みて日程を組んでおり,おそらく2010年のこともある程度決まっているのではないか(切り換え準備のための導管側の対応はもう始まっているのではないか)と思います.これを今さら前倒しするとなると,作業が粗雑になったり,新たなミスが出かねないか心配です.(非常に古い話ですが,1974年頃に大規模な熱量変更を行った事業者で,切り換え作業のミスで死者が出たということがあったようです.なんと北海道ガスという会社のようですが,このときの原因にはだいぶ無理な日程で作業を行ったことがあるようで,やはり同じことは繰り返す可能性があることはさせられないでしょう.)
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