これを「裁判の引き延ばし」と非難するのは当たらないのではないでしょうか.
1999年に山口県光市で起きた当時18歳の少年による母子殺害事件の上告審のことです.
この事件は一審,控訴審で無期懲役が言い渡され,検察官が死刑を求めて上告していたものです.
最高裁は2005年12月に口頭弁論を開くことを決め,3月14日の期日を指定しました.最高裁が原判決を是認する場合は口頭弁論を開かず判決を言い渡すことが通例であることから,無期懲役の判決が見直される可能性があります.これを受け弁護人が2月になってから安田好弘弁護士他に交代して辞任したため,安田弁護士らは弁論の準備ができず最高裁に延期を願い出たものの却下されていました.
このため安田弁護士ら弁護人は3月14日の弁論期日を欠席し,最高裁は改めて4月18日の期日を指定しています.最高裁は初の「出頭在廷命令」を発したほか,弁護人に非難が集中しています.
しかし,今回の口頭弁論の欠席は,被告人の権利保障のために弁護人に唯一残された手段だったと思います.
最高裁が弁論を開くことは,原判決が見直され最終的に死刑の判決を受ける可能性が出てきたことを意味します.特に死刑の判断には慎重の上にも慎重な審理が必要であり,検察側・弁護側双方に十分な主張をさせた上判断する必要があります.安田弁護士らは今月6日に就任しており,死刑事件の膨大な記録を精査して被告人の主張を弁論で十分できるだけの時間がないことは確実といえるでしょう.
確かに,直前で弁護人が交代したことも問題といえば問題かもしれません.しかしこれも弁護人が被告人の権利を守るために別の弁護士に引き継いだものと考えられ,慎重に審理を尽くすためには期日の延期もやむを得ません.
裁判の迅速化は社会の要請であるとされます.しかし被告人の権利保障(適正手続の保障)が裁判の大前提であることは忘れてはならないことであり,たとえどのような判決が出るにせよこれを欠いた裁判はその権威が損なわれることになります.私には安田弁護士が訴訟遅延を目的に今回の行動に出たとはおよそ考えられませんし,裁判所や検察官には,多少判決が遅れたとしても適正手続の確保を優先してもらいたいと思います.
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