鉄道事故としては近年まれに見る事故が起こりました.死者が50人を数え,信楽高原鉄道事故を上回る惨事となりました.亡くなった方に哀悼の意を表します.
さて,毎度のことではありますが,マスコミの報道ではどうしてもおかしな内容のものが目立ちます.
・事故現場をスピードオーバで通過した.
→一般に鉄道の制限速度は,その速度で通過したときに乗客が不快な加速度(遠心力による横方向の力)を感じない速度になっていて,脱線に至るまでは相当なマージンがあります.金沢工大の先生がインタビューで答えている通り,40km~50km程度はマージンがあると考えていいのではないでしょうか.一般に鉄道だけでなく工業分野での巨大システムはその程度のマージンを確保すると思われます.
・車両の剛性が不足していた.
→確かに鉄道車両は側突を考えずに設計するものですが,それは側突を受けることが極端に少ないから考慮に入れていないということで,ほとんど起こらない事故のために側面の剛性を高めるというのは設計上適切とはいえないかもしれません.今の車両は鋼製車体に比べて1両平均で10トン以上も軽くなっていて,これによるメリットは計り知れないものがあります.今さら鋼製車体など現実的ではないでしょう.(エネルギ消費の問題だけでなく,騒音や振動の低減のほか,軌道への負担の軽減による信頼性・安全性の向上という側面もあります.)
→では,剛性があれば安全だったのでしょうか?仮に今回の事故の場合,鋼製車体だったとしたら,建造物への影響が今回の比ではなかった可能性があります.万一建造物が倒壊したとすれば,さらに大惨事になります.
もうひとつは,自動車と異なり旅客は車両に拘束されているわけではないので,70キロ,またはそれ以上という速度で衝突したとすれば,車内で壁や他の人に叩きつけられるなどにより結局は助からないでしょう.自動車と異なり,剛性が高い→安全とはいえないのです.立客が多い通勤電車などでは特にそうですが,今後も衝突しないことに研究の資源を集中させるべきと思います.(踏切の自動車との衝突などはともかく)
・ATSは旧式で,カーブの速度制限に対応していなかった.
そもそもATSは信号見落としを避けるための機器で,カーブの制限に対応しているものではありません.
カーブの速度制限に対応しているのは,ATCです.(ATSの最新型のATS-Pも対応していると思いますが.)
これらが導入されているのはむしろまれで,東日本は結構多く導入していますが,民鉄は大手でも東京メトロ(いくつかの線区はまだ?),東急(田園都市線,東横線,目黒線)といった程度で,あとはほとんど普通のATSです.(ただしJRの「旧式」なATSよりは頭がいいものを使っている会社が多いですが.)
JRも九州や四国などもほとんどが「旧式」ではないでしょうか.
あとは,なぜ東日本や東急などでATS-PやATCを使っているかというと,安全に過密運転ができるからです.
ですので別に西日本が特に遅れているわけではありません.PやATCがどこにでも導入できればいいですが,コストの問題で相当な過密路線(輸送人員が多い)でないと現実的ではないかもしれません.(もしかしたらPは安いかもしれませんが?)
・現場に,脱線防止レール(護輪軌条)が設置されていなかった.
→R300のカーブで設置している会社なんてないと思います.そもそも,仮に速度超過が原因であるとしたら,遠心力で外に引っ張られて脱線するような事象を護輪軌条で避けられるのでしょうか.はっきりいってこの議論はナンセンスだと思われます.
まだ原因がわかっていないので対策を論じるのはだいぶ早計ですが,原因と対策とそのコストについてきちんと科学的に考えないとおかしな話になってくると思います.


最近のコメント